サッカー然り、バスケットボール然り、多くのスポーツでは、攻撃ばかりにスポットライトが当たりがちで、守備が軽視される傾向が昔からある。
それはサッカー選手なら誰もが憧れる、世界で最も名誉な個人賞である「バロンドール」の過去の受賞者リストからも読み取れる。
バロンドールの過去受賞者にDFとして名を連ねているのは、1956年の創設から現在まで、フランツ・ベッケンバウアー(72年・76年)、マティアス・ザマー(96年)、ファビオ・カンナバーロ(06年)の3人のみで、GKの受賞者はレフ・ヤシン(63年)ただ1人である。
また、中盤の選手に限定しても、バロンドール受賞者リストには、03年にパウェル・ネドヴェドの名前が1番最初に目に入るだけ。
個人賞における全体的な”守備軽視”の流れが続くサッカー界において、GK・DF・守備的MFの存在を軽視したがために、崩壊したクラブがある。銀河系軍団レアル・マドリードだ。
後述するが、銀河系軍団崩壊の引き金となったのは、全てを中盤の底で支えていた守備職人クロード・マケレレのチェルシー移籍。
マケレレなくして、銀河系軍団あらず。
銀河系軍団レアル・マドリードの誕生
レアル・マドリードのロス・ガラクティコス、別名・銀河系軍団の誕生はフロレンティーノ・ペレスの会長選挙公約の実現から始まった。
フロレンティーノ・ペレスのレアル会長就任
それまで約2億5000万ユーロの負債を抱えていたレアル・マドリードの会長に就任したのがフロレンティーノ・ペレス。
スペイン最大の建設グループを作り上げ、その界隈では名を知らぬ者はいないほどの著名人である彼が、マドリードの会長選挙の公約として掲げたのがルイス・フィーゴをバルセロナから引き抜くというもの。
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その選挙公約が見事に実現。ルイス・フィーゴを獲得したその年から、レアル・マドリードは毎年1人、世界的スーパースターを獲得する”経営方針”を掲げるのであった。
ジダネス・イ・パボネスという”経営方針”
2000年にルイス・フィーゴを6200万ユーロで獲得。加えて、クロード・マケレレも加入すると、ラウール・ゴンザレス、フェルナンド・モリエンテスやフェルナンド・イエロと共にリーグ優勝、CLベスト4とまずまずの成績でシーズンを終える。
翌年、当時の世界最高選手であり、筆者は今もなお世界最高と疑わないジネディーヌ・ジダンを7750万ユーロで獲得。
ここから”ジダネス・イ・パボネス”が始まった。
「ジダンたちとパボンたち」と呼ばれたその施策は、ジダンのような超大物スーパースターを毎年1人獲得し、フランシスコ・パボンのようなレアルのカンテラ出身選手たちを組み合わせてプレーさせる、というもの。
“ジダンたち”はクラブから高額な年俸を得るが、ユニフォームや広告出演などの全般的な広告収入はクラブに持っていかれていたのが実情。
2億5000万ユーロもの負債を抱えていたマドリードは、いつの間にか数億ユーロものお金を銀行に預けるまでにV字回復。
“ジダネス・イ・パボネス”は、レアル・マドリードを強くするための”強化方針”ではなく、”経営方針”であった。
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ロス・ガラクティコスの誕生
00年にルイス・フィーゴを、01年にはジネディーヌ・ジダンを、02年にはブラジル代表FWロナウドを獲得。
ここにロス・ガラクティコスが誕生した。
翌年、マンチェスター・ユナイテッドからデイヴィッド・ベッカムを獲得。ルイス・フィーゴとポジションが被るベッカムの獲得が、銀河系軍団崩壊の始まりの予兆であったことは、この時はまだ誰も知らない。
レアル銀河系軍団崩壊の始まり
ルイス・フィーゴの獲得に始まり、当時の移籍金で世界最高額での移籍を果たしたジネディーヌ・ジダン、翌年には貴公子ベッカムを獲得。
“守備軽視”のペレス会長は、最大の功労者である1人の守備職人を軽視したがために、銀河系軍団は崩壊の道を進むことになる。
チェルシーへ投げ売りされた守備職人
銀河系軍団崩壊の最大の要因であるクロード・マケレレの放出は、レアル・マドリードの歴史上、最も後悔せざるを得ない事案だろう。
“ジダネス・イ・パボネス”を掲げ、攻撃陣にベッカムを加えたレアル・マドリードにおいて、守備を放棄したスーパースターの尻拭いをする守備職人をチェルシーに放出することは、イコール、銀河系軍団の崩壊の始まりだと言っても良い。
彼が担っていた仕事の大きさが分からず、サラリーを全く上げなかったマドリードは、彼をチェルシーへ投げ売りすることに何も思わなかった。
クラブ功労者であるイエロ、モリエンテスの退団
マケレレのチェルシー移籍と同時期に、クラブ功労者である、フェルナンド・イエロとフェルナンド・モリエンテスがクラブを去るのに、そう時間はかからなかった。
彼らは、スーパースターに隠れながらも、銀河系軍団には絶対不可欠であり、その存在価値を誰よりも分かっていたのは、”何もしない”監督、ビゼンテ・デルボスケ、ただ1人であった。
ビゼンテ・デルボスケの警告
レアル・マドリードが”上手く回っていた”のは、ジダンたちの尻拭いをする、日の目を浴びない縁の下の力持ちの存在があったから。
しかし、マケレレが去り、イエロとモリエンテスが去った。
それに危機感を覚えた”何もしない”監督が、ペレスに初めて警告。彼らは必要だ、と。
結局、デルボスケもレアルを去り、”ジダンたちとパボンたち”は、”ジダンたち”だけとなった。
ロス・ガラクティコスの崩壊
デルボスケが去ったレアルの後を継いだ”監督 たち”は、”ジダンたち”を飼い慣らすことはできなかった。
おそらく、それはデルボスケでも無理だろう。
彼らを飼い慣らすことができるのは、中盤の底で永遠と走り回っていたクロード・マケレレ、ただ1人だけ。
彼がいなくなったレアル・マドリードは、ただの攻撃陣スーパースターコレクションとなり、ロナウジーニョ擁するバルセロナとのエル・クラシコは、まるで大人と子供の試合のようであったことは、当時を知る人なら分かるはずである。
ペレスのロス・ガラクティコスが崩壊した。
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マケレレなくして、ジダンなし。
クロード・マケレレという男は、多くのサッカー選手の中でも唯一無二の存在であり、それこそ、クロード・マケレレという男の存在価値を分かるクラブが勝ち続けた。
スーパースターが揃うクラブでこそ、陰で支える彼がより輝き、勝利を導く。
当時、世界最高のプレーヤーであったジネディーヌ・ジダンがレアル・マドリードとフランス代表でタイトルを獲得した時、そこには必ずジダンの傍にマケレレがいた。
実際、当時のレアル・マドリードは、ジダンとマケレレさえいれば、残りの9人がパボンたちでも問題なく世界一のクラブになっていただろう、フランス代表がそうであったように。
筆者は思う。
マケレレなくして、ジダンなし。
マケレレなくして、ロス・ガラクティコスなし。
クロード・マケレレこそ、世界最高ではないのだろうか