18-19シーズンまでの10年間、4-3-3の中盤の底には必ずブスケッツが君臨。多くのプレーヤーが彼のポジションを奪いに移籍してきたが、彼のポジションは揺らぐことはなかった。しかし、19-20シーズンの開幕戦のスタメンに、彼の名前はなかった。
その日から、バルセロナがバルセロナではなくなってきたのを感じたのだが、それはおそらく筆者だけではないはず。
ブスケッツがバルセロナのトップに昇格してから、彼がベンチを温める日はほとんどなく、また、途中交代・途中出場など、見た記憶はない。
アヤックスから移籍してきた逸材フランキー・デ・ヨングを否定しているわけではないが、ブスケッツがいないバルセロナは、バルセロナではなかった。
事実、開幕戦はアスレティック・ビルバオに0-1で敗れた後、ブスケッツがスタメンに名を連ねるようになると、チームは少しずつ安定。
バルサに必要なのはメッシではなく、ブスケッツ?
これは筆者の個人的な1つの考えであるのだが、バルセロナに必要なのは、絶対的なリオネル・メッシではなく、セルヒオ・ブスケッツではないかと。
理由はいくつかあるが、大事なことは、「バルセロナに必要なのは?」ということ。
例えば、あれだけのスピードとテクニック、抜群のサッカーセンスを持ち合わせているメッシなら、おそらく、バルセロナ以外のクラブでも活躍することは可能だろう。メッシはどこのリーグ、どこのクラブでも自分のスタイルを生かすことができるだろう。
しかし、ブスケッツがバルセロナ以外のクラブで、彼のスタイルを生かすことはおそらくできない。
ほとんどドリブルもせず、かと言って、マケレレやカンテのようなディフェンスができるわけでもないし、ランパードのような得点力があるわけでもない。高身長だが、ポグバのようなフィジカルを生かすプレーもしない。
ましてや、そんなに走れるタイプのプレーヤーでもないので、ボランチとしては疑問符がつく。
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毎年の移籍の噂に、メッシやらネイマールやらの名前が挙がる中、これまでブスケッツの名前がほとんど挙がらないのは、上記のような理由があるのかもしれない。(実際には分からず、完全に筆者の妄想であるが)
ただ、ブスケッツがバルセロナ、そしてスペイン代表で中盤のトライアングルを形成した、タイプの似たシャビやイニエスタも、ほとんど移籍の噂が挙がらなかったのは…。
結果、イニエスタはヴィッセル神戸に移籍、シャビは現役引退。
ただ、それでもバルセロナにはブスケッツが必要で、ブスケッツの代えはいない。バルセロナのアンカーは、彼にしかできないのだ。
サッカーは、失点さえしなければ負けることはない
一般的なリーグ戦の場合、失点しなければ負けることはない。0-0で引き分け(勝点1)、1点取って1-0で勝利(勝点3)のどちらかになる。
筆者はかねてから、サッカーは守備のスポーツだと思っているのだが、このような考えがあるから。決して攻撃のスポーツではない。
ブスケッツの体力面での課題はデビュー当時から言われており、彼のウィークポイント。
しかし、ピッチ全体を縦横無尽に走り回る=良い、というのは少しだけ違う気がする。
バルセロナやスペイン代表の試合を観ると、どうしても華麗な攻撃に視線が動いてしまうが、ブスケッツだけをよく観ると、相手の攻撃の芽を摘むディフェンス(戦術的ファウル)は◎。
「ボールあるところにカンテあり」ではないが、ピッチ全体を走り回るカンテが悪いと言っているわけでもないし、カンテはそれで世界一を獲得している。それが彼のプレースタイル。
しかし、ブスケッツを観ると、より効率的にサッカーを出来るのでないかと、そう思わせてくれる。
デ・ヨングは確かに未来のバルセロナを担うかもしれないが、アンカータイプではない。ブスケッツが中盤の底にいるだけで、ディフェンスは安定する。
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シャビ「生まれ変わるならブスケッツ」
ブスケッツを見出したのは、当時のバルセロナBの監督であったジョゼップ・グアルディオラ。08-09シーズンにトップチームの監督に昇格したペップと共に、ブスケッツも昇格。
それ以来、バルセロナのアンカーにはブスケッツの名前があった。
大きな怪我をしないのもブスケッツの特徴。バルセロナのトップチームに昇格して以降、毎年のように30試合以上出場。多いシーズンでは50試合を超えることも。
ブスケッツと同じく、大きな怪我をせず、長年バルセロナの中盤を支えたシャビは言う。
生まれ変わるならセルヒオになりたい。全てを兼ね備えたフットボーラーだから。
シャビ・エルナンデス(元バルセロナ/元スペイン代表)
バルセロナだからこそ、ブスケッツが必要
シャビがそう言うのも無理はない。
バルセロナにはブスケッツが必要であり、彼は唯一無二の存在なのだ。
ユルゲン・クロップのドルトムントから始まったゲーゲンプレスを皮切りに、世界中で広まった前線からのプレッシングサッカー。FWは得点さえ取れば良いなんて時代は、とっくの昔。あのリオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドでさえ、少しはディフェンスをしなくてはならない。(それでもあまりしていないが)
昨今、プレッシングサッカー全盛期と言われる現代サッカーにおいて、狭いスペースの中で、いかに冷静かつ、ミスをしないプレーができるかどうかが、プレーヤーとしての評価に繋がる。
こと、ブスケッツに関しては、狭いスペースでのプレーが世界No.1である。
バルセロナでは前を向いてプレーすることがファーストチョイスだと言われている。なぜなら、それが相手DFにとって、最も脅威であるから。
ブスケッツの前にはいつも偉大な2人のMFがおり、もう1つ前には、世界最高のプレーヤーがいる。彼らが後ろを向いてプレーせざるを得ないとき、いつでもどこでも、彼らからパスをもらえる位置取りをし、そして、彼らが前を向ける体勢になった時にワンタッチで再びダイレクトパスを送る。
ピッチの幅を上手く使い、サイドチェンジをすることも。視野が抜群に広く、相手DFの位置さえも把握する能力は、一朝一夕では培われない。生まれ持った才能だろう。
ヨハン・クライフはこう言った。
ボールを扱う時、ワンタッチでプレー出来れば素晴らしい。ツータッチもまずまず。しかし、スリータッチでは駄目だ。
ヨハン・クライフ
スピード・フィジカルに優れているわけではない
ブスケッツはスピードやフィジカルに優れているわけではない。
走るスピードに関しては、世界最低レベルだろう。長身で脚が長いにも関わらず、である。
スプリント勝負では平気で負けてしまうし、筆者はそれを大事な場面で何度も目撃している。
フィジカルに関しても、彼は自分よりも小柄な選手に当たり負けしてしまうことも多々ある。
また、体力面はデビュー当時から不安視されていたが、年齢を重ねるにつれ、より走れなくなっている印象。(試合中の走行距離を測ったら、おそらく彼はGKの次に走っていないだろう、これも筆者の妄想でしかないが)
世界トップのプレーヤー、クリスティアーノ・ロナウドなどは、おそらくサッカー以外のスポーツでも成功した可能性が高い。それはアスリートとしての能力(筋力や走力などのフィジカル能力から、アジリティー能力まで)が極めて高いから。
だが、ブスケッツはアスリートとしての能力が世界レベルに達しておらず、移籍市場で彼の人気がないのは納得か。
ブスケッツのターンは誰にも止められない
現代のプレッシングサッカーでは、広いスペースを有効に活用することは非常に困難。
なので、メッシやイニエスタ、シャビに少しでも時間とスペースに余裕を与えるために、ブスケッツは彼らからボールを受け取り、そして再びワンタッチで戻すことを淡々と行う。
ただ、ブスケッツもまた、狭いスペースの中でプレーしなくてはならない。
ワンタッチでパスを出せないときも必ずあるのだが、そこで観られる彼のターンの技術が素晴らしい。
決して速くはない。むしろ遅いくらいだ。
それでも相手はその動作に引っかかり、ブスケッツは何事もなかったかのように、またパスを送る。
少なくとも、バルセロナに所属するプレーヤーたちは、狭いスペースでのプレッシングをかいくぐる術を得ており、イニエスタの伝家の宝刀であるダブルタッチはその良い例。
だが、ブスケッツはその中でも群を抜いており、プレッシングをかいくぐるのが抜群に上手い。
ピッチ全体を上から見ているような、絶妙なバランスの取り方
相手DFを1人剥がす。サッカーでは数的優位を作ることが確実に勝利を手繰り寄せる、一番の方法。
バルセロナは、いや、ブスケッツは、この数的優位を作るのが非常に上手い。
イニエスタやシャビのパスを相手DFのマークを厳しく受けることのない位置で受け、そこで数的優位を作る。
この単純な、ボールを受けて、ワンタッチorツータッチで出す。この動作の精度とスピードは世界トップ。
現代のプレッシングサッカーにおいて、ビルドアップの時間とスペースが削られる中、ブスケッツのプレッシングを受けない的確なポジショニングとパス出しの速さは素晴らしいの一言。
ブスケッツ無くして、いまのバルセロナは存在しない
ブスケッツのプレーは、とにかく単純で正確。ボールを受けて、ワンタッチorツータッチで展開する。ドリブルはいらない。そして、それを90分間で何度も何度も淡々と繰り返す。
MOMとして名前があがることはほとんど無いし、彼がバロンドール候補者リストに載ることは、熱帯国で雪が降るのと同じくらいあり得ないことだ。
ただ、フットボールの理解者は分かるだろう。
セルヒオ・ブスケッツこそ、バルセロナに最も必要なプレーヤーであり、彼なくして今のバルセロナは存在しない。