世界最強のゲーゲンプレスとショートカウンターを駆使するリヴァプール
後に説明するが、リヴァプールの監督である、ユルゲン・クロップが今回のテーマの核心をつく発言をしていたので紹介したい。
ボールを奪い返すのに1番良いタイミングは、相手にボールを奪われた瞬間。この段階では、ボールを奪った相手選手は、ボールを次にどこにパスを出すかを探している。
さて、今回は、世界最強リヴァプールが駆使するゲーゲンプレスとショートカウンターについて。
カウンターの種類
ショートカウンターがあるということは、ロングカウンターも存在する。
ロングカウンターとは
ロングカウンターとは、DFラインを下げて守備ブロックを敷き、ボールを奪ったと同時にロングボールなどで素早く攻撃を仕掛けるカウンター戦術の1つ。
ボールが奪われたと同時に自陣深くまで下がり、守備ブロックを形成する「リトリート」と併用されることが多い。(例: レアル・マドリード、チェルシー、09-10インテルなど、ジョゼ・モウリーニョが指揮をとったチーム)
アトレティコ・マドリードは、4-4-2の鉄壁ブロックを敷く、堅守を売りとしたチームだが、速攻が物足りない印象。
ショートカウンターとは
一方、ショートカウンターは、その対義となるわけだが、一応確認しておこう。
ショートカウンターとは、ハイプレスで相手がビルドアップする前にボールを奪い、その瞬間から攻撃に転じるカウンター戦術の1つ。
このショートカウンターは、後述する「ゲーゲンプレス」と併用することで威力が増す。ちなみに、このゲーゲンプレスは、ハイプレス戦術の1つで、一般的なハイプレスとは異なる。
リヴァプールのゲーゲンプレスとショートカウンターが世界最強と言われる理由
では、なぜ「リヴァプールのショートカウンターが世界最強」と言われるのか。その理由は、先ほどのゲーゲンプレスが鍵を握っている。
まずは、ゲーゲンプレスの生みの親、ユルゲン・クロップという男を少しだけ紐解いていこう。
ユルゲン・クロップという男
ユルゲン・クロップ。かつて香川真司が所属したボルシア・ドルトムントの監督を08-15シーズンまで。そのおかげか。日本では聞いたことがある人も多いだろう。15-16シーズンからリヴァプールの監督に。
弱小チームであったドルトムントの監督に就任し、わずか2年後にはブンデスリーガを制し、翌年も優勝を果たし連覇を達成できたのは奇跡でも偶然でもない。
ユルゲン・ クロップは、バルセロナに憧れがあった。
「誰もがバルサのようにプレーしたいと思うだろうが、実際は不可能だ。シャビ、イニエスタ、メッシの3人がいなければ、あんなプレーはできない。だけど仮に3人がいなくても、バルサは完璧なプレスを掛けられる。それがレアルとの差だ」。
クロップが理想とするスタイルは、「レアルの攻撃にバルサの守備をミックスさせる」というものであった。
完成したクロップ・ゲーゲンプレス
ゲーゲンプレスは、バルセロナも実践していた。一般的にゲーゲンプレスは、ボールを奪われた瞬間に、ボールを奪い返そうとする集団的作業のことを言う。
バルセロナのゲーゲンプレスは、奪われた瞬間に、ゲーゲンプレスを仕掛ける選手たちは、ボールホルダーの周囲のパスコースを瞬時に読み、パスコースを消す。その際、わざと特定のコースだけを開け、そのコースに出されたパスを華麗にインターセプトする。
相手は威圧感を感じることなく、なぜか綺麗に開いている(と勝手に思っている)パスコースにまんまとパスを出してしまう。これがバルセロナのゲーゲンプレス。当時、世間ではまだゲーゲンプレスという言葉を使っていなかったように記憶している。単純に前線からのハイプレス戦術、5秒ルール、とも言われていた。
それを見たクロップは、レアルの攻撃にバルサの守備をミックスさせることを思いつく。
レアルの攻撃、すなわち、カウンター攻撃。これにバルサのハイプレス戦術を組み合わせたのが、ゲーゲンプレスだ。
クロップのゲーゲンプレスは、ボールを奪われた瞬間に、ボールホルダーの周辺プレーエリアを制圧するスタイル。とにかく密集させ、考える時間と余裕すら与えない。パスコースは特定のコースのみ開けておき、そこにパスが入ったらインターセプト。パスを選択しなかった場合、ボールホルダーは密集したエリアに留まり、息の根を絶たれる。
ボールを奪ったあと、時間をかけずにすぐにゴールへと向かう。ここでショートカウンターが発動する。バルセロナは、ボールを奪ったあと、すぐにゴールには向かわず、ポゼッションを開始する。ここがクロップとペップの違い。
ただ、クロップのゲーゲンプレスは、運動能力と戦術理解能力が非常に高いレベルで求められる。闇雲に走って追いかけ回すのではなく、ボールホルダーの状況に応じて、その都度、適切なポジショニングを取り、コースを切りながらプレスをかけ続けなければならない。
選手同士の共通理解
そういう意味で言うと、チームでの選手同士の共通理解が必要不可欠だ。1人でも戦術理解ができない選手がいると、ゲーゲンプレスが全く成り立たない。また、誰が出ても強度を変えずにゲーゲンプレスが実行できないと、長期間のシーズンを戦い抜くことは困難を極める。
ベンチプレーヤーを含めた全員が、このゲーゲンプレスを理解することが必須。
自己犠牲を厭わない精神
リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドは、守備を免除された、いわば王様プレーヤー。
しかし、彼らの所属したチームがなぜ強かったか。周りの兵隊アリが汗水流して一生懸命走り回っていたからだ。
クロップのゲーゲンプレスを実践する場合、チームにメッシやCR7のような王様プレーヤーを必要としない。全員がハードワークを苦とせず、勝利のみを追い求める。1人でもサボれば、勝利はない。その意味で、自己を犠牲にしてまでも、という忠誠心を持ったプレーヤーをクロップは好む。香川真司や南野拓実といった日本人プレーヤーを好むのも分かる気がする。
まとめ
今回は、簡単にゲーゲンプレスとショートカウンターについて。クロップをただの大きいおじさんだと思っていた人、彼は凄い人なんです。